続・Wuppertal留学日記

2016年10月から2017年3月頃まで、再度留学する機会に恵まれました。前回に引き続き、大学の様子や体験などを書き残していこうと思います。

(2016年11月26日(土):霧/晴れ) 弾丸旅行Bremen - Munster

昨日夜に慌ただしく立てた計画に従い、深夜バスでBremenまでやってきました。

到着したのは早朝4時過ぎで、外は真っ暗なうえに霧が立ち込めていました。ついでに極寒です。キール旅行を思い出すほどの寒さで、空気は暴力的なまでに冷たいという状況でした。

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▲霧立ち込める早朝の街並み

童話の町というイメージがあるBremenですが、今は不気味さの塊です。一人で来ていたら怖くて駅から出られなかったかもしれません。
しかし、しばらくここに滞在し、6時過ぎの電車でムンスターへ向かう予定です。それまではどこかで時間を潰さねば。

早朝4時ではまともな店が開いているはずもなく、また寒すぎてウロウロできるような精神状態にもありません。そんなわけで、24時間営業のワールドワイドチェーン店マクドナルドに逃げ込むことにしました。この時間のマクドナルドは似たような境遇の旅行者風の客や行き場のない若者などにあふれており、妙に賑わっています。私は寒さを何とかしたくてホットコーヒーとハンバーガーセットを頼みました。友人たちも似たようなものを頼んで席に座っていたのですが、私だけ店員に呼ばれてカウンターに連れていかれました。何か別のものも注文したかしら?と思っていたら、店員さんが顔を近づけてきてこんなことを囁いてきました。

「君たちの隣の席に座っている男だが、おそらく君らの鞄を狙っているから気を付けた方がいい。実は以前も旅行者の鞄が盗まれたことがあるんだ。同行者たちにも注意を促しておいて、荷物を離さないようにしておきなさい。」

こんな忠告をされたのは初めてです。確かに店内は若干アウトローっぽい方たちで溢れていましたが、ほかに行き場もないのでここにいる他ありません。そんな旅行者は狙われやすいカモなのかもしれません。店員のおじさまにお礼を言い、席に帰ってから荷物を近場に置き、朝食を済ませました。
隣に座っていた若者はこちらの食事が終わる前に立ち去ったのですが、その後掃除にやってきた店員さんがまた忠告してくれました。

「以前も日本人だか中国人だか、アジアの旅行者がやってきた際に盗難にあったんだ。会話に集中している間に鞄ごと持ち去られてしまって、パソコンや重要書類が入っていたために大層困っていたようだったよ。旅行中は気を付けるようにね。」

ドイツは安全な国なので時々海外にいるのだということを忘れて警戒心を解きかけてしまいますが、改めて旅行中は気を引き締めておこうと思いました。とはいえ、こうして忠告してくれる方もいるあたりドイツは良心的な国だと思います。もしかしたら以前の盗難事件とやらで店員さんも面倒ごとに巻き込まれて嫌気がさしたのかもしれません。いずれにしても助けていただいて感謝です。

その後、のんびりコーヒーなど飲んでいたのですが、突然警官が入ってきて隣に座っていた若者グループが店外に連れ出されました。何があったのか状況は一切わかりませんでしたが、店内から見える位置で取り調べが始まり、そのままどこかへ連れていかれてしまいました。
映画の世界のスラムのようです。大都市ブレーメンの中央駅前でこんな状態なのだと思うと空恐ろしいものを感じますが、時間も時間ですし仕方ないのでしょうか。ヴッパタールは治安が良いのだということを改めて思い知りました。

そんなことからブレーメン旅行が始まってしまったため、観光をするのも若干怖かったのですが、6時まで無為に過ごすのはあまりにももったいありません。ということで、友人たちと「音楽隊の像」まで早朝の散歩に行くことにしました。駅前周辺にはビールを飲みながら奇声を発している若者の集団などがおり、末法の世を感じさせるものがありましたが、旧市街の方へと入っていくと今度は一気に人気がなくなり別の意味で恐怖を覚えました。ついでに霧が立ち込めていたために、バイオハザードか何かのような世界に迷い込んだような雰囲気です。こんな時間に人が出歩いているのも怖いのですが、そうはいってもあまりにも人気がなさすぎます。

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▲有名な音楽隊の像 昼間は観光客でにぎわっているため、閑散とした状態は珍しい?

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▲早朝のクリスマスマーケット

旧市街の中心地はクリスマスマーケットの出店で賑わっているのですが、当然今は開いておらず、ただただ出店の間を迷路のように歩いていきました。そのころには冒険感があって面白く感じ始めました。
音楽隊像も無事見ることができ、ひとしきり写真撮影などをしたのちに駅に戻ってきました。

若干時間ぎりぎりではありましたが、ムンスター行きの電車に乗ることができました。ここから2時間弱の鉄道旅です。外はまだ真っ暗でしたが、ムンスターに到着する直前くらいに薄明るくなってきました。このあたりは平原のような風景で電車の中から見ている分には気持ちが良いのですが、外は風も吹きわたっており寒々しています。

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▲ムンスターの中央商店街の様子 まだ人も少ない時間帯だった

ムンスターについたのは8時過ぎでした。戦車博物館の開館は10時ですのでまだまだ時間があります。最初に博物館の場所だけ下見しておいて、あとは市街地をうろうろしようということになりました。
久しぶりにやってきたムンスターですが、相変わらずの田舎町といった風景に安心しました。博物館も外観は以前と全く変わっていません。
中心街の方へ歩いていくと、さすがにそれなりに人がいました。とはいっても、大体が犬の散歩をしているおじさんおばさんで、若者の姿は見えません。
商店街の端にある、リリー・マルレーン像を眺めたのちは、その向かいにある"NATO-Shop"というミリタリーショップで30分ほどお買い物をしました。
基本的にはBundeswehrの払下げ品が主力商品となっており、中古の軍服などが並んでいます。しかし、新品も各種扱われており、見ていて面白いお店でした。私はセーターと手袋、リュックサックなどを購入しました。基本的に軍服はサイズが大きいものばかりです。店員さんにも「ドイツの大人サイズ基準だから君に合うサイズのものはほぼない」と言われてしまいました。おかげで過度の散財は避けられました。
そんなこんなで遊んでいたら10時を過ぎてしまっていました。一通り買い物して満足したのちに改めて戦車博物館へ向かいました。

 

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▲リリー・マルレーン像 有名な歌曲「リリー・マルレーン」の世界観が表れているのはなんとなくわかるが、なぜここにこのような形で立っているのかという能書きが欲しいところ。

www.youtube.com

▲歌については歌詞付き動画を貼っておきます。ディートリヒが歌ったことで有名らしいのですが、ドイツだけでなく連合国側でも好まれた兵隊ソング的な側面も強かったと言われています。

 

戦車博物館は学生料金ということで3.5ユーロで見学できました。ロッカーを使う場合はデポジットとして10ユーロを支払う必要があります。鍵を返すことでその10ユーロが返ってくるという仕組みです。

今回は特別展などはやっていませんでした。前回の教訓で、格納庫の中はかなり寒いということを覚えていたため防寒具を着込んできたのですが、それでもやはり寒かったです。
展示品は前回訪れた際とほとんど変わっていなかったように思いますが、配置が若干変わっていました。前回3号戦車が置いてあった入り口すぐの場所にパンターが配置されており、かつてパンターが展示されていた場所には4号が置かれていました。3号は以前と逆向きに展示されていたため、前方からの写真が撮りにくくなっていました。
とはいえ、その程度の変化であとは大きく変化したところはなかったように思います。

 

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▲格納庫に入ってすぐ目に飛び込んでくるパンターの姿 以前はここに三号が入口にお尻を向けて配置されていました。入口を塞ぐかのように大型の戦車が横向きに配置されているというのはボービントンを思わせる配置です。ボービントンでは入口を入ってすぐのところにポルシェ砲塔のティーガーが横向きに展示されていました。

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ティーガーの配置は前回同様 やはりいつ見ても美しい

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▲”ブルーマックス”の愛称でも知られる「プール・ル・メリット勲章」

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▲鉄十字章も一通り展示されていました

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▲レオパルド 同じエリアに東独時代の車両も並んでおり、東西の車両を見比べることができます。

 

初めて訪れた際は感動の嵐で、丸一日見ていてもなお足りないと思ったくらいでした。特に、ティーガーの前で30分ほど立ち尽くしていたりしたのですが、既に展示の様子や配置を知っている状態で訪れた今回は極めて冷静に見学できました。
かつてほどの感動を味わうことができなかったという点は悲しむべきところなのかもしれませんが、人生そんなものなのだと思います。こうしてどんどん贅沢になっていくのでしょう。イギリスまでタイガーデイを見に行ったのも、前回渡航時に既に戦車に対する欲求が贅沢になっていたことを示すものだったかもしれません。このうえは発砲シーンでも見ない限り前回を超える感動は味わえないかもしれません。

ところで、前回訪れた際に図録を購入したのですが、日本に帰ってきてから改訂版が作られていました。今回の目的の一つはこれを手に入れることでした。かつての図録は展示物の解説ばかりで、博物館そのものに対する記述が少ないという欠点がありました。今回はそのあたりの記述が増えているのではないかと期待していたのですが、ちょっと期待外れでした。思っていたほど前回の版から大きな変化はありませんでした。
戦車博物館がなぜこの場所にあって、どのようにこれほどの展示物を集めたのかという点に興味があったのですが、そういった記述はパッと見た感じ少なそうです。
ムンスターはドイツ陸軍の戦車兵学校の町として、ドイツ陸軍史の中ではコブレンツと並んで有名な街らしい、ということが展示の中でそれとなく触れられていたのですが、そのあたりについての記述をもっとしてほしいところです。今思えば、ムンスターの地域史の本を探してみた方がよかったのかもしれませんが、帰ってきてからそんなことを思ったので手遅れでした。

戦車博物館を14時過ぎに出て、ブレーメンへ帰ることにしました。といっても、ブレーメン行の電車は2時間に一本程度の間隔でしか出ていないため、15時過ぎまで待たねばなりません。駅に着いてからはチケットを購入し、寒い中でしりとりなどをしながら待っていました。券売機が現金使用不能という珍しいタイプだったため、若干怖かったのですがクレジットカードでチケットを購入しました。カードを券売機で使うのはこれが初めてでした。

ブレーメンには17時過ぎに到着しました。早朝とは打って変わってすさまじい賑わいを見せています。人混みの中をクリスマスマーケットに向かいました。早朝一通り町を散歩していたおかげで、大体どこに何があるかわかりました。

相変わらず殺人的寒さだったので、早くクリスマスマーケットで何か食べたり飲んだりしたかったのですが、凄まじい人混みに移動するだけでも一苦労でした。広場にたどり着いたらまずはReibekuchenを食べて腹ごしらえをしました。ドイツ語には慣れたと思っていたのですが注文の仕方を間違えてしまい、大量のジャガイモケーキと対峙することになりました。友人たちの手も借りてみんなで食べたのですがあまりの寒さと空腹感のおかげでおいしく食べきることができました。立ち食い用のテーブルがあちこちに用意されていたのですが、そのあたりで食べていると声をかけてもらえたりします。当然見知らぬ人たちではあるのですが、世間話や冗談を飛ばしてくれたりするので楽しく過ごすことができます。

ブレーメンのマーケットは市庁舎周辺でかなり大規模に行われていたため、一通り見て回るだけでもかなり大変でした。どこかでホットワインを飲もうということになったのですが、あちこちに色々なお店があり、使われているカップの見た目なども違っていて店を選ぶだけでも面白みがあります。

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▲夜のクリスマスマーケットの風景 早朝の寒々した風景が嘘のような賑わい

大体クリスマスマーケットで扱われているものはどこの町でも似たようなものなのですが、それゆえに同じものを食べ比べたり飲み比べたりといった楽しみ方ができます。ただ、今日のように寒い日はそれをするのも若干辛いものがあります。

楽しいことには楽しいのですが、あまりの寒さと疲労感からどこかで座ってゆっくりしたい気分でした。が、帰りの電車も近づいてきてしまったため結局そのまま駅へ向かい、普段だったら絶対に購入することはないICという快速電車のチケットを購入して帰路につきました。若干割高だったのですが、寒さと疲れで早く帰りたいという感情が節約心を上回り、贅沢な行動に走ってしまいました。

日付が変わる直前にヴッパタールに帰り着きましたが、電車の中で若干眠っていたものの疲れは頂点に達しており、家まで歩くことに対して嫌気がさしました。といっても時間的に都合の良いバスもなく、またタクシーを使うのもさすがにはばかられましたので、友人たちと励まし合いながら歩いて帰りました。

まさかここまでハードな旅になるとは思っていませんでした。しかし、見たいものは一通り見てくることができました。

 

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悲しいニュースです。

「Deutsches Panzermuseum Munster」のFacebook公式ページ11月29日の記事を引用します。

 

ELVIS HAS LEFT THE BUILDING

Seit 2013 konnte das Deutsche Panzermuseum Munster einen Tiger zeigen. Bei diesem Fahrzeug handelte es sich um eine Leihgabe, und der dazugehörige Vertrag ist nun ausgelaufen.

Das Fahrzeug wurde daher am Montag, den 28.11.2016 aus der Dauerausstellung entnommen und kehrt nun zu seinem Besitzer zurück. Der Leihgeber hat sich das ehrgeizige Ziel gesetzt, das Fahrzeug wieder fahrfähig zu machen - ein großes Ziel, das den Trennungsschmerz etwas mildert.

Der Tiger hat damit die Dauerausstellung also nun verlassen; er kann im DPM nicht mehr besichtigt werden.

Allerdings sind wir mit Panther, Sturmtiger und Königstiger auch im Bereich der Großkatzen weiterhin gut aufgestellt und wir freuen uns darüber hinaus, im März ein neues Stück aus der Welt der Tiger zeigen zu können.

Also bleiben Sie uns treu! ;)

(Quwelle:https://www.facebook.com/DasPanzermuseum/?fref=ts)

 

以下、要約。

「2013年からムンスターで展示されていたティーガー1は借り物であり、今年になって貸出契約期間が終了した。2016年11月28日月曜をもってティーガー1は常設展から取り払われ、本来の持ち主のもとに戻ることになった。持ち主は車両を改めて走行可能な状態に復元するという野望を持っており、そのための措置として展示から去ることになった。3月にはティーガー関連の新たな展示が加わる予定。」

ということです。

なんという悲劇!ドイツで唯一ティーガー1を見ることができたのはここでした。イギリスには既に走行可能な状態のティーガーがあります。しかし、イギリスでドイツ戦車を見ることにどれほどの意味がありましょうか。ドイツ国内でティーガーを見ることができるというこの博物館の利点が失われてしまいました。さらばティーガー。最高に美しい鉄の塊だった...。

ただ、もし走行可能状態に復元するという野望が成就されたならば、また何らかの形で世に出てくることも考えられます。どうなることか誰にも予想はつきませんが、期待して待っていることにしましょう。

また、私事で恐縮ですが、前回私が留学したのは2013年からの一年間でした。つまり、私の前回留学開始時にティーガーはここにやってきて、今回留学時の2016年に去っていったわけです。...そんなわけで勝手に運命を感じています。次またティーガーが復活する頃にドイツに来ることができたら良いのですが...。