続・Wuppertal留学日記

2016年10月から2017年3月頃まで、再度留学する機会に恵まれました。前回に引き続き、大学の様子や体験などを書き残していこうと思います。

(2016年11月24日(木):曇り) Königsblauer S 04

今日は3コマ連続ドイツ語授業の木曜日です。授業が終わって14時過ぎだったのですが、16時頃から出かける予定が入っていました。

友人に大のサッカーファンがいるのですが、彼発案のサッカー観戦イベントに誘っていただいていたのです。

正直なところ私はサッカーには興味がありませんでした。ルールすらよく分かっていません。オフサイドなど、何度説明を聞いても理解できません。ですが、だからこそ行ってみようという気になりました。

おそらく、こういう機会でもなければサッカー観戦に行くことは一生ないでしょう。せっかくサッカーに詳しくて誘ってくれる友人がいる今のうちに見に行ってみようというわけです。

見に行くのは、SchalkeというGelsenkirchenのチームとフランスのニースというチームの試合です。友人はDortmundのファンらしいのですが、そちらのチケットはとることができなかったのだそうです。
Gelsenkirchenは、先日出かけたEssenの近くの町です。そこにあるVeltins Arenaというところが今回の試合会場です。ちなみにここがSchalkeのホームでもあります。試合開始は19時でしたが、早めに到着して様子を見てみるつもりでした。

会場の周りにはファンショップやフードスタンドなどが並んでおり、ちょっとしたお祭りのようです。何も知らないものの、ファンショップでマフラーを買って身に着け、さもSchalkeファンのような恰好をしておきました。友人曰く、Schalkeのシンボルカラーは青で、ドルトムントのシンボルカラーは黄色なのだそうです。Schalkeとドルトムントはライバル関係にあるため、Schalkeのチームメンバーはスパイクなどでも黄色のものは絶対に身に着けないというルールがあるのだそうです。「今日黄色いものを身に着けていたら殺されますよ」という冗談なのか本気なのかよく分からない忠告をされました。

彼がとってくれた席は、アリーナ東側の全体を見渡すことができるところでした。しかし、彼曰くファンは通常南側のスタンドで観戦するのが流儀なのだそうです。ただ、Schalkeの場合に限ってはその逆で、北側がファンの特等席なのだとも教えてくれました。これもドルトムントと関わりがある話なのだそうで、なんでもドルトムントファンが南側での観戦を好んで始めたために、Schalkeファンはそれに対抗して北側をホームとし始めたということなのだそうです。なんだか面白い文化です。

サッカーファンというと妙に団結力が強くて暴力的で騒がしいという、フーリガン的なイメージが私の中にありました。ですが、いろいろと話を聞いているともっと奥が深い存在のようです。

試合開始前に相手チームのサポーター集団は発煙筒をたいたりと過激なパフォーマンスを始めました。なんだかすごい迫力ですが、あちらにはあちらの流儀があるのでしょう。会場はブーイングの嵐でしたが。

さて、私は一切何も分からないまま観戦を始めたのですが、Schalkeグッズを身に着けてドイツびいきな気持ちで見ているとなんとなく青いものを身に着けたファンたちとの一体感を味わうことができました。さらに、敵チームがそれとなく憎らしく見えてくるという不思議な感情まで湧き上がってきました。「Die Welle」のアレみたいです。一体感の気持ちよさと外集団に対する敵意は表裏一体なのでしょうか。

特に、Schalkeがシュートを決めるとチームの歌が流れたりして会場を盛り上げるのですが、こういうイベントが妙に共同体感情を煽ってきます。サッカーのルールすら知らないのにも関わらず、Schalkeが愛おしく思えてくるのです。サッカーは危険なスポーツなのかもしれません。

試合はSchalkeが2点決めて相手は0点という形で幕を閉じました。最後に流れた、Königsblauer S04という曲でSchalke熱は頂点に達しました。

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▲ファンたちが合唱しており、Schalke!と叫んでいるさまは中々の迫力でした。

帰りは人混みに紛れつつ、また迷子になりつつも何とかGelsenkirchenの駅にたどりつくことができました。まだ試合終了からそれほど時間が経っていないこともあって、サッカーを観戦したファンたちがあちこちにいます。ついでに警備の警官もあちこちにいて、非日常感を醸し出しています。

Essen行きの列車のホームに行くと、Schalkeの旗を持ったファンに「Glück auf Schalke!」と声をかけられました。よく分からないまま「Glück auf Schalke!」と返すと、仲間認定してくれたのか妙に親しげに話しかけてきました。

Essenまでの電車内で一緒に座って話をしていたのですが、どうもこのあたりの大学に通う学生らしいです。Schalkeの大ファンらしく、今日も北側で観戦していたとのことです。彼らは青と白の縞々模様のシャツを身に着けていたのですが、これはかつての炭鉱夫の服なのだということでした。友人曰く、Gelsenkirchenは炭鉱の町として有名で(Zollvereinの遺跡もここにある)、Schalkeのイメージキャラクターも炭鉱夫なのだそうです。そんなわけで、炭鉱の伝統がSchalkeを彩っているのだそうです。「Glück auf!」も単に「幸運を!」という意味があるだけでなく、かつての炭鉱夫たちがよく用いていた言い回しだということでした。
彼らは非常に親切で、Essenの学生イベントに誘ってくれたり次の試合情報を教えてくれたりしました。Essen駅で記念撮影をして別れましたが、またどこかで会うこともあるかもしれません。

サッカー観戦をしたことで、なんとなくサッカーファンの気持ちが分かったような気がします。正直なところ、サッカーそのものに対する興味は湧きませんでした。しかし、チームサポーターの一体感に対して興味が湧きました。同じ服装や色で一体感を強調し、同じチームを応援しているという共同関心でもって共同体意識を強化しているその在り方はまさにコミュニティ、ゲマインシャフトといった趣です。外から見ていると恐ろしく見えたり、野蛮に見えたりしても、中に入ってしまえば温かい仲間意識が待っているというのも何とも興味深い現象です。自分の精神的変化を観察できたという意味でも今回のサッカー観戦は勉強になりました。