続・Wuppertal留学日記

2016年10月から2017年3月頃まで、再度留学する機会に恵まれました。前回に引き続き、大学の様子や体験などを書き残していこうと思います。

(2016年11月11日(金):曇り) 聖マルティンとカーニバルと深夜バス

昨晩は大変でしたが、何とか今朝は起きることができ、授業に参加しました。ちょっと遅刻してはしまいましたが...。授業では、聖マルティン(Sankt Martin)の話をしていました。

今日はMartinstagという祭日なのだそうで、これは歴史上の聖人マルティンを讃える日とされています。マルティンはローマ時代の戦士だったそうなのですが、貧しい人々や子供たちを頻繁に助けていたそうです。中でも有名な逸話が、雪の降る極寒の日に凍える人を見つけて自分のマントを剣で半分に割いて分け与えたというもので、剣と半分のマントがマルティンを象徴する記号となっているそうです。彼はその後、戦士であることをやめて神父となり、人々を助け続けました。マルティンに助けられた人々は彼を司教に推薦したものの、謙虚な性格であった彼はこれを固辞します。しかし、その後もあまりにしつこく勧められたために身を隠すことにしました。納屋に隠れて人々をやり過ごしていたところ、納屋の中にいた鶏などの動物が鳴き声を上げて彼の存在を人々に伝え、それで観念したマルティンは司教になって町の人々に愛情を注ぎ、また愛されながら暮らした...というような話だそうです。

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▲ 聖マルティンの歌 お祭りで子供たちが歌うらしいです。

 

11月11日といえば、カーニバルが始まる日だとばかり思っていましたが、マルティンの祭日も同じ日だったとは。マルティンの話そのものは前回留学時にも聞いた覚えがありますが、この日だったとは失念していました。授業では上述の逸話と文化の話が主で、むしろカーニバルについては大して触れられませんでした。

しかし私はカーニバル派なのです。ケルンも大好きですし。そんなわけで、帰宅後は友人とカーニバルを訪れました。15時過ぎから顔を出したので、ほとんどちらっと見て終わりという感じではありましたが、十分雰囲気は堪能できました。前回留学時にカーニバルのCDを購入し、それを帰国後もよく聞いていたため、耳慣れた音楽があちこちから流れてきて楽しかったです。

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▲カーニバル名物?散乱するゴミ。前回は面食らいましたが、今回は懐かしさと安心感すら覚えました。

 

ステージがある中央広場へ行ったところ、目が合ったドイツ人の若者から「シンジ―!!カガワシンジー!!」と猛烈に絡まれ、ケルシュやらタバコやらをごちそうになってしまいました。こちらの人たちの絡み方は尋常ではありません。恥ずかしがっていたら負けのような気もしますが、彼らに合わせることもまた不可能なのでなんともいたたまれない気持ちになります。文化交流としては面白いうえに友好的なため不快感はないのですが、パワフルさに参ってしまいます。20分ほど捕まったのちに何とか隙を見て逃げ出し、帰路につきました。

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▲電車内の時刻表示がおかしなことになっていました。タイムスリップした気分。記事の話題とは一切関係ない写真でアレですが...。

 

この週末はキールに行く予定なのですが、それを一緒に来ていた友人に話してみたところ、「まさか電車で行くつもり?絶対長距離バスの方が安い!Flixbusという深夜バスがあるからそれを調べてみなよ!」と猛烈にバスを勧められました。その場で携帯端末を利用して調べてみたところ、ちょうど今晩2330デュッセルドルフ発、翌0700キール着の便がありました。しかも、値段は往復で電車の片道分ほどでした。これは確かにお得!しかも早朝に到着できるのはありがたい!
その友人は今晩の便でハンブルクに向かうそうで、それもあってバスを勧めてくれたのだそうです。その場でバスの利用を決断し、帰宅後即一席予約してデュッセルドルフへ向かうことにしました。友人たちもデュッセルドルフ発の便に乗るということだったのですが、いざキール行きを予約してみたところ友人の便と同じバスでした。ハンブルクの次の停車駅がキールだったというわけです。そんなわけで、結局彼らと行動を共にすることになりました。

21時過ぎにWuppertalを出るということだったので慌てて準備をして駅に向かいました。ところが、電車のトラブルと自分たちの確認ミスが重なり、乗るはずだった電車を逃してしまいました。しかも、次の電車ではバスの発車時間にギリギリ間に合いそうにありません。万事休すかと思っていたところに、近くにいたDB職員のおじさまが話しかけてきてくださり、電車の便が書かれた紙片をくださいました。おじさん曰く、「半分はDB側の問題だったうえに自分もしっかりトラブルを把握できていなかった。申し訳ない。この電車に乗れば最も早くデュッセルドルフにつくことができるから、これに乗るように。」とのことです。なんとありがたい!ありがとうございます!と喜んでいたところ、その早く到着するはずであった電車に遅延が出始めたとの表示が電光掲示板に現れました。しかも1分や2分ではなく、20分規模です。こりゃあ参ったと頭を抱えていたところ、またしても先ほどのおじさまが近くにやってきてくださいました。

「さっきの電車だけど、これもだめみたいだ。本来なら若干時間がかかる別の便があるんだけど、遅延している電車よりこっちの方が少し早そうだからやっぱりこっちに乗った方がいいよ。」とご丁寧に教えていただきました。

ただ、どちらにしてもバスに間に合いそうになかったため、お世話になりついでということで図々しくバスの件を伝えて助言を仰いでみることにしました。長距離バスを利用するのは私にとっても友人たちにとっても初めてのことだったため、遅れた場合どうなるのかということを含めて全く状況を理解していなかったのです。
「初めて長距離バスで旅行をするのですが、どうやら時間に間に合いそうにありません。こういう場合ドイツではどうしたらよいのでしょうか。電話をして待ってもらったりすることもできるのでしょうか。」といった感じのことを訪ねてみたように思います。
すると、「Flixバスは頻繁に遅れてくるから希望はあるかもしれない。ただ、電話をして待ってもらうというのはドイツでは無理だから、それについては諦めてくれ。」とのことでした。

しかし、おじさまはプラットフォームまで一緒についてきてくださったばかりか、「バスの件だけど、今から私が電話して確認してあげるよ」と言って電話をしてくれました。ところが中々繋がらず、乗るはずだった電車がやってきてしまいました。仕方ないので別れを告げて乗り込もうと思っていたところ、おじさまは「僕も一緒に乗り込むから、安心してくれ」と言ってついてきてくださいました。デュッセルドルフまでの電車の中で中々繋がらない電話を根気強くかけ続けてくださり、バスは時刻通り運航しているか否かについて確認してくださいました。確認の結果、運航は時間通りということが判明したために若干希望が失われかけましたが、「まだ諦めるのは早いよ。駅についたら必死で、アホみたいに走るんだ。乗客の乗り込みにも時間がかかるから間に合う可能性はある。もし間に合わなかったらその時次の手を考えればいい。もし一晩デュッセルドルフで過ごさなければならなくなった場合は、○○というホテルが最も安いからそこを使うといい。だが、まずは走るんだ。いいね?」とおじさまは励ましつつアドバイスをしてくださいました。そればかりか、「駅についたら僕も途中まで走りに付き合うよ。場所を教えてあげるから、そこに向かってとにかく走れ!」というではありませんか!ここまで底なしに面倒を見てくれるなんて、もはや泣けてきます。

駅に着きそうになったら「用意はいいか?いくぞ!」と率先して駆け出し、バス停の方向やバスの色などについて教えてくれました。お礼を告げて去ろうとしたところ、「そんなのはいいからとにかく走れ!」と声をかけられました。

もう間違いなくこの方は聖マルティンの生まれ変わりです。「ありがとうございました!」と叫びながら駆け出したのですが、バスが見えたあたりでドアが閉まってしまいました。そこへ友人がたどり着き、ドアをノックして空けてもらうことに成功しました。おかげで皆何とか所定のバスに乗り込むことができたのです。

はからずもちょっとした冒険になってしまいましたが、おじさまのおかげで旅行計画がふいにならずに済みました。何もお礼をできていないのが心残りだったのですが、一緒にいた友人が「これはもうDBに就職して恩返しするしかない」などと言っていたために若干本気にしてしまいました。そうでなくとも、もう一度しっかりお会いして何かお礼をしたいと思います。そんなことが可能なのかどうかはわかりませんが。


これから11月11日は私にとって聖マルティンでもカーニバルでもなく、DBのおじさんの記念日です。